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評価:4.5
漫画でも小説でも脚本でも、創作のうえで切っても切れない関係にあるのが、「ストーリー」と「キャラクター」。
どちらかは得意でどちらかは苦手、そんな方も多いですよね。
僕はキャラクターをつくるのが苦手で、キャラクターのつくり方の本をかたっぱしから読んだこともあります。
しかしキャラクターを今までにない方法でつくる、しかも同時にストーリーもできてしまう、そんな魔法のような書籍が出版されました。
それが『キャラクターからつくる物語創作再入門「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』です。
キャラクターアークとは「登場人物の変化の軌跡」。
この変化の軌跡を、ストーリー制作で用いる三幕構成にならってつくっています。
いわば三幕構成のキャラ版。キャラづくりに三幕構成を使うことで、キャラクターとストーリーが同時につくれる、唯一無二の書籍となっています。
というわけで本記事では『キャラクターからつくる物語創作再入門「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』を詳しくレビューしていきます。
クリックできる目次
キャラクターからつくる物語創作再入門の内容
本書はキャラクターアークを使ってつくる物語創作です。
キャラクターアークとは人物がたどる変化の軌跡のこと。
その基本は以下の3つ。
- 主人公がある状態で登場する
- 主人公が物語の中で何かを学ぶ
- 主人公が前より良い状態になる
ということで、アークを使った物語創作再入門がはじまります。
本書は全部で4章。
キャラクターからつくる物語創作再入門の目次は以下の通りです。
それでは各章を詳しく紹介していきます。
一章:ポジティブなアーク
1章は全14項目あります。それがこちら。
詳しく紹介していきます。
人物が信じ込んでいる「嘘」
ここでいう「嘘」というのは、キャラクターの思い込みのこと。
例えば、
- 好きな人のタイプは○○
- 大人は汚い
- 強いものが必ず勝つ
- 自分には価値がない
といったキャラクター主観の価値観や考え方です。
最終的にこの「嘘」は変化し、真実を手に入れます。
人物の「WANT」「NEED」
キャラクターが「欲しいもの」と「必要なもの」。
この2つの違いをわかりやすく例えると、こうなります。
- WANT=彼女
- NEED=愛
キャラクターは自分にとって「必要なもの」を自覚しておらず、「欲しいもの」ばかりを追い求めます。
そして「必要なもの」は主人公が信じている「嘘」ではなく「真実」。
人物の「ゴースト」
キャラクターが「嘘」を信じ込んでしまった背景には、なにがあるか。
それが「ゴースト」です。
例えば自分には愛される資格がない、という「嘘(思い込み)」に至った過去のできごと。
人物の「特徴が表れる瞬間」
ストーリーは当然のことながら、キャラクターを紹介する必要があります。
ただ紹介するよりも、こいつはこんなキャラクターなんだぜ、という特徴と共に紹介するのが定石です。
主人公の特徴が表れる瞬間として、理想的なものは以下の3つです。
- 読者にとって主人公が魅力的に見える
- 主人公の長所と短所の両方が紹介できる
- プロットを先に進ませる
「普通の世界」
普通の世界とは、キャラクターが過ごしている日常の世界です。
日常の世界を描くことで、キャラクターの「嘘」やそのほかの設定を読者に見せることができます。
第一幕
第一幕ではなにを描くのか。三幕構成を知っている人なら、すぐにわかる内容ですよね。
そう、作品の設定を描くパートが第一幕です。
本書では作品の設定のほかに、キャラクターアークも設定します。
キャラクターアークの設定に、必要なパーツは以下の6つ。
- 「嘘」を明確に打ち出す
- 「嘘」を克服する力があることを示す
- 最初の一歩を教える
- インサイティング・イベントを拒否させる
- 「嘘」への態度を進展させる
- 決断させる
プロットポイント1
「普通の世界」から旅立つできごとが起きるポイントです。
キャラクターはまだ「嘘」を信じ込んでいますが、今までの日常には不安を感じ、なにかしらの行動をとる変化のきっかけ。
「WANT」を求めて日常から飛び出します。
第二幕の前半
第二幕の前半では新しい世界へ飛び出した、キャラクターの生き方を描きます。
この項目で必要なキャラクターアークは以下の4つ。
- 「嘘」を克服するためのツールを与える
- 「嘘」のせいで困難に陥るところを描く
- 人物を「WANT」に近づけ「NEED」から離す
- 「嘘」のない状態をちらりと見せる
キャラクターの嘘(思い込み)で順調にストーリーは進んでいるように見えるが、実際はその嘘のせいで困難になったり、本当に必要なものから遠ざかったり。
そういったものを見せるのが第二幕の前半です。
ミッドポイント
キャラクターの中で大きな変化が生まれる展開がミッドポイントです。
キャラクターアークでいうと、今まで信じていた「嘘」が違うことに気づく。
そのことによって、じょじょにキャラクターに変化が生まれはじめます。
第二幕の後半
第二幕の後半は、キャラクターは「嘘」ではなく真実を受け入れ、「NEED」を手に入れるために積極的に行動していきます。
第二幕の後半で必要なキャラクターアークのパーツは6つ。
- よりよい行動をさせる
- 「嘘」と「真実」で板挟みにする
- 「嘘」がもたらす結果から逃避させる
- ビフォー・アフターで対比する
- 見せかけの勝利をさせる
- キャラクターアークの核心をはっきり見せる
キャラクターはじょじょに変化をたどっていきますが、まだ「嘘」による妨害がある段階。
自分の思い込みによって「真実」が大切だとわかっていながらも、長く思い込んできた「嘘」にしばられています。
しかし態度による変化も見受けられるのもこの段階です。
プロットポイント3
プロットポイント3はキャラクターアークの中で、最も重要な場面です。
それはキャラクターが「嘘」の世界で手に入れたいものと、本当に価値のある「真実」のどちらかを選択するシーンだからです。
今まで手に入れたいと思っていた「WANT」と、本当に価値のあるもの「NEED」の選択を明確に提示し、「嘘」にとらわれていた自分にさよならを告げます。
この選択を迫るのは敵対者で、まだキャラクターはやっつけていない状況です。
第三幕
選択を迫った敵対者と、対決する準備をするシーン。
第三幕で必要なキャラクターアークは4つあります。
- 危険度を上げる
- 人物を常に不安定な状態にしておく
- 人物がどこまで変化したかを示す
- 新しい価値観に新しい攻撃をしかける
前項目プロットポイント3で「真実」を選択したキャラクター。
しかしそれは本当に正解だったのか。「嘘」を信じていた方がよかったんじゃないか。
といった葛藤を描くシーンでもあります。
クライマックス
クライマックスはキャラクターの変化を証明するシーンです。
「嘘」を完全に排除し、選択した「真実」に従って行動します。
そしていよいよラスボス、敵対者と対決。読者が納得のいく結末を提示します。
「解決」
解決は単なる結末を書くのではありません。
キャラクターがまだ「嘘」を信じていた、「普通の世界」と対比するシーンです。
この解決では「真実」を手にしたキャラクターが、その世界で暮らす日常を描きます。
「普通の世界」と「真実を手にした世界」の対比。それは前より良い状況になっていることがほとんどです。
二章:フラットなアーク
フラットなアークの主人公は、ポジティブなアークと違い、心の変化をしません。
最初から「真実」を手にしていて、その「真実」に従って行動します。
このアークはキャラクター自身が変わるのではなく、キャラクターが世界を変えます。
「嘘」を信じているのは世界のほう。
フラットなアークの項目は3つです。
それぞれ詳しく紹介していきます。
第一幕
第一幕は設定を見せるシーン。それに必要なパーツは3つあります。
- 人物が信じる真実
- 普通の世界
- 特徴が表れる瞬間
主人公だけが真実を知っていて、それ以外の人物は「嘘」を信じ込んだ「普通の世界」で暮らしています。
このまま「嘘」が支配していると、大変なことになる状況下です。
第二幕
第二幕はポジティブなアークと同じ構成。
その構成は以下です。
- プロットポイント1
- 第二幕目の前半
- ミッドポイント
- 第二幕目の後半
「嘘」を信じていたポジティブなアークと違う点は、「真実」を主張すること。
「真実」を主張するたびに罰を受けたり、「嘘」の世界におさまるように言いくるめられます。
第三幕
「嘘」を支配する敵と対決するシーン。
第三幕もポジティブなアークと同じ構成です。
- プロットポイント3
- 第三幕
- クライマックス
- 解決
このフラットなアークでは主人公に影響されて、それまで「嘘」を信じていた脇役が「真実」を知ることになります。
そして「真実」を知った脇役は、「嘘」を支配している敵と戦う主人公の、力強い味方になります。
最終的に世界は「嘘」から解放されて「真実」の世界に。
解決の部分では、真実の世界で暮らす人々の様子をしっかり描きます。
三章:ネガティブなアーク
ネガティブなアークは、いわゆるバッドエンディングの主人公です。
このネガティブなアークはパターンが3つあります。
- 失望のアーク=悲劇的な「真実」を知る
- 転落のアーク=さらにひどい「嘘」を信じる
- 腐敗のアーク=「嘘」を受け入れる
上記のアークは、構成は今までのアークと同じものの、描く内容が異なります。
構成は以下。
それでは詳しく紹介していきます。
第一幕
第一幕の構成は以下です。
- 人物が信じ込んでいる「嘘」
- 普通の世界
- 人物が際立つ瞬間
- 第一幕
ネガティブなアークでは「嘘」と「真実」、両方を読者に見せます。
そしてどのネガティブなアークのパターンでも、「嘘」が優位に立ち、キャラクターはその世界で暮らしています。
第二幕
第二幕の構成も、これまでのアークと同じです。
- プロットポイント1
- 第二幕目の前半
- ミッドポイント
- 第二幕目の後半
ネガティブなアークで描く内容は、より闇に落ちていく、という点。
キャラクターは「真実」の大切さを知りながらも、「嘘」を払うことができません。
その結果、前よりも力強く「嘘」に従って行動していきます。
第三幕
第三幕目も構成は同じです。
- プロットポイント3
- 第三幕
- クライマックス
- 解決
構成はこれまでと同じですが、最後に訪れるのはバッドエンド。
ネガティブなアークに訪れる結末は以下の2通りです。
- WANTを手に入れるが心は満たされない
- 真実を受け入れられず戦いに敗れる
共通するのは「真実」を拒否し、「嘘」の世界から抜け出せないこと。
解決の部分ではバッドエンドを迎えた主人公が、最後どうなったのかをしっかりと描きます。
四章:キャラクターアークについてのよくある質問
キャラクターアークは”登場人物の変化の軌跡”を描くこと。
だけどこの方法で物語を創作するやり方は、本書にしか書かれていません。
なので実際に書いていると、
といった箇所がでてくることがあります。その場合の解説もしっかりカバー。
例えばこの章では以下の疑問について答えています。
- 人物に適したアークの選び方
- アークをサブプロットにしてもいいか?
- インパクトキャラクターとは何か?
- インパクトキャラクターがなぜ必要か?
- 脇役にもキャラクターアークが必要?
- 人物に報酬と罰を与えて変化を促す方法は?
- 物語にキャラクターアークがない場合は?
- シリーズものではキャラクターアークをどう作ればいいか
3章までの内容を補完する解説。
キャラクターアークを使った、ストーリー作りの具体的イメージがつかめます。
キャラクターからつくる物語創作再入門のレビュー
読み終わった感想は、
の一言。
これまで物語を創作するとなると、2つの勉強が必要でした。
- ストーリー
- キャラクター
しかし本書ではこの2つの勉強が、一度でできてしまう。
今までストーリーやキャラクター関係の本はたくさん読んできましたが、どの本にもないアプローチ方法で、物語を創作する術が載っています。
本書で解説されているキャラクターアーク(登場人物の変化の軌跡)は、記載順に以下の3つがあります。
- ポジティブなアーク
- フラットなアーク
- ネガティブなアーク
ポジティブなアークは、キャラクターがよい方向に変化する描き方。
フラットなアークは、キャラクターが周囲に変化をもたらす描き方。
ネガティブなアークは、キャラクターが悪い方向に変化する描き方。
ほとんどの作品はポジティブなアーク型が多い印象。
ストーリーのパターンともいえるし、キャラクターのパターンともいえる。
そしてそのパターンに必要な構成も解説。……すさまじい…ですね。
このキャラクターアークをベースにすると、描く物語は3つに絞られます。
- 自己の回復
- 他者への救済
- 自己の破滅・他者の破滅
3つのパターンに絞るからこそ奥が深く、でも作りやすい構成でもあります。
具体的な展開も学べるので、まだ1作品も書いていない人でも、書き切ることができるのが本書の強み。
これを知っているか知っていないかで、物語創作に幅の違いが出るな、と感じました。
ベースにあるのが三幕構成なので、三幕構成も知っていると理解がスムーズです。
三幕構成を学ぶなら「SAVE THE CATの法則」がおすすめ。
【レビュー】SAVE THE CATの法則!本当に売れる脚本術はストーリー制作の基礎を固めるバイブルキャラクターからつくる物語創作再入門のまとめ
キャラクターとストーリーを同時に学べるのが本書「キャラクターからつくる物語創作再入門 キャラクターアークで読者の心をつかむ」です。
今までにないアプローチ方法で物語創作について解説されています。
作品を作るなら、「キャラクター」と「ストーリー」両方を勉強しなきゃ!と考えている人にこそおすすめです。
これ1冊ですべて解決。
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